極楽記録

BGM制作受け付け中! BGM制作事業「キリカ工房」の主、ソロユニット「極楽蝶」の中の人、ユニット「キリカ」のギターとコンポーザー、弾き語りアーティスト、サポートギタリスト、編曲者のサエキの記録

名作SF「ファウンデーション」を読んだ! アシモフは偉大なり!

 

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ハヤカワ文庫版の表紙は生頼範義氏のイラスト。平成ゴジラシリーズのポスターの人ですな。

 

 

 

圧倒的。何故こういう物語を思いつくのか。素晴らしいにもほどがある。

 

作者はアイザック・アシモフ氏。かの名作「我はロボット」(著者未読、すいません。。。)の著者にして、SF文学における伝説的存在である。

 

人類が地球を飛び出し銀河系の星々に進出し、銀河帝国が設立されて1万2千年が経過した未来、大都市惑星トランターにすむ心理歴史学教授のハリ・セルダンは「銀河帝国の衰退」を予言する。

文明が銀河系のあちこちに点在しているため、帝国が崩壊すると数々の技術や文明が失われる。宇宙が秩序を取り戻すまで最低でも3万年の月日を要すると推測したセルダン。その3万年間の暗黒時代を3000年程度に縮小するために、セルダンは行動を開始する。

 

銀河帝国の衰退」を予言したとして帝国側から「反逆罪」に問われたセルダンは、自ら希望して銀河の片隅にある不毛の惑星「ターミナス」に流刑となり、その地にて百科事典を作成する組織「ファウンデーション」を設立する。

 

以上が序盤のあらすじである。

 

この話、なんと元ネタが「神聖ローマ帝国」だそうです。そう、つまりは西洋史(史実)ということ。

ローマ帝国の衰退の原因には諸説がある。ゲルマン人の大移動やら、資源の枯渇(木を伐り過ぎた)等。崩壊後、しばらくは暗黒時代を過ごさねばならなかった。

暗黒時代、つまりは文明が崩壊した後の世界のことなのだけれど、そういった世界をどうやって生き延びるのか想像できる人間は少ない。文明が崩壊したということは、有していた技術の殆どが失われたということである。

現代に置き換えて考えてみよう。私たちはスマートフォンを使用して生活している。もはや、現代生活においてなくてはならないものとなったスマートフォン。しかし、文明が崩壊したらどうなるか? 我々は使うだけならばスマートフォンを使用できる。でも、我々一般人の殆どがそれを自分の手で作り出すことができないのだ。

文明が崩壊するとは、そういうこと。つまり、石器時代からやり直さなければならないわけ。

 

小説では、心理学者ハリ・セルダンがそれを防ごうとする。自身が亡き後のことを考え、セルダンはファウンデーションに危機がおとずれる時期を生前に予測し、危機到来が近くなるとその姿を映像で現す。そして、危機回避のための知恵を授けるのだ。

 

危機回避の方法が実に面白い。まずは宗教を用いて人民の心を掌握する。しかし、文明が発展する過程で宗教の効力は弱まっていく。その後は市場経済によって経済的に宇宙世界を掌握する。生活家電等をファウンデーションの技術に頼っている人民は、ファウンデーションを攻撃することはできない。それをすることは自らの生活を破綻させることを意味するからである。

まるで人類史を見ているかのようだ。やはり人をうまくまとめるためには宗教とモノとカネが必要なのだな。

 

表紙に宇宙戦艦が描かれているので戦闘シーンがあるかと思われがちだが、戦闘描写は皆無である。しかし、ファウンデーションに危機が訪れるたびにセルダンの予言によってそれを回避する様がとても鮮やかでスカッとする。戦闘シーン以上のカタルシスは用意されている。

 

この小説、執筆された時期が1942年だそうだ。丁度太平洋戦争で日本と戦っていた時期である。それ故か、原子力技術に関する描写がまさに「夢のエネルギー」といった有様だ。タイムワープを使う際も原子力を使用、ファウンデーションのお偉いさんが護身のために携帯しているのは原子力シールド。銀河の星々の国力についても「原子力を扱えているか」が大きな分岐点となる。「原子力を扱える」=「脅威」と見做されるってな具合。

執筆当時、原子力が新たな可能性を持ったエネルギーだったことが伺える。今読むと、なんとも皮肉な話ではあるが…。

しかし、戦中に書かれた小説といっても、今読んでも全く違和感を覚えない。

現在でも十分に読み応えのある小説である。本書を読めば、本書が現代の数々のSF作品に影響を与えていることがわかる(例えば、漫画版の風の谷のナウシカなど)。

まさに古典SFの決定版といえる傑作。人類史をSF世界で再現してしまうとは驚愕である。巻末の訳者あとがきにも書いてあったが、本当に、アシモフは「怪物」である。