極楽記録

BGM制作受け付け中! BGM制作事業「キリカ工房」の主、ソロユニット「極楽蝶」の中の人、ユニット「キリカ」のギターとコンポーザー、弾き語りアーティスト、サポートギタリスト、編曲者のサエキの記録

映画「ザバットマン」、DC映画の原点回帰! ネタバレなし。皆、映画館へ走れ!

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今回は探偵バディモノ! フィンチャー監督の「セブン」を思わせる異色作!

 

 

大当たり!! 

個人的にはこの5年間でトップテンクラスの、最高に楽しい映画だった。

 

バットマン映画と言えば、ノーラン監督の「ダークナイトトリロジー」という大ヒット作品があり、制作側としても観る側としても「あれを越えられるの?」という不安が付きまとうものだが、そんなものは杞憂に過ぎなかった。

 

ダークさと重厚さ、孤独なヒーローの悲哀はより深みを増しており、撮影アングルやカット割りはホラー映画の手法そのままだ。特に、冒頭のリドラー初登場シーンの「特に何の効果もないけど、怖いものがしれっと映っている」感じは近年のホラー、サイコスリラー映画によくある手法である。

実写版においてはバートン監督「バットマン」から「ダークヒーロー」として描かれることがテンプレとなったバットマンだが、そのダークさはついにホラーの域にまで達している。

 

そして、ダークナイトと決定的に違うのは、今回の「ザバットマン」が「サイコスリラー映画」であること。

この物語において、犯人リドラーを追うバットマンとジェームス・ゴードンはストーリー上の狂言回しに過ぎない。白人と黒人のコンビがサイコ犯の「なぞなぞ」を追い、結果的に犯人の思惑を達成させてしまう。

フィンチャー「セブン」と構造がよく似ている。

そうだった、DCというのは、、

 

"detective comics"の略。

 

つまり、「探偵漫画」だ。

 

娯楽大作として心底楽しい「ダークナイトトリロジー」との差別化のため、今回の作り手は原点回帰を果たしたのだ。「ダークさの深化」と「原点回帰」という二種をブレンドし、先の娯楽大作と全く別物の、重厚なスリラー映画を作り出してしまったわけである。恐れ入った。すげぇ!

 

 

そんなわけで、今回の「ザバットマン」は、アクション満載のマーベルヒーロー映画や、先から述べている娯楽大作「ダークナイトトリロジー」と同じものを期待すると、「ただの暗くて長いだけの映画」と肩透かしを食らうだろう。

 

もちろん、バッツ映画おなじみの「大迫力バットモービルカーチェイス」や、ラストにはこれまたお決まり「行けぇバッツ! やっちまえぇ!」の大乱闘シーンは用意されている。が、アクションはあくまで従来のファンたちのための「すごい豪華なおまけ」として考えるべき映画だと思う。何せ、アクション以外でも語られるべき要素がかなり多い。

今回、イマイチ乗り切れなかったという方は、そういったアクションやガジェットを期待されていた方々なのかも、と個人的には思う。

 

 

以下に、私が個人的に「これ好きだ!」と思ったストーリーや設定について書いていく。

 

 

ブルース・ウェインについて

今回のバットマンブルース・ウェインは、ヴィジランテ活動を始めて2年目の若き青年。ノーラン監督映画「テネット」でも鮮烈な印象を残したロバート・パティンソンが主演を務める。社交性に乏しく、繊細なブルース・ウェインの姿を好演している。

眠らずに夜な夜な自警活動に身を投じ、傷だらけになって帰ってくるという、ある意味では自傷行為ともいえるような行動を繰り返す、不安定な心を持つ青年。言わずもがな、年中雨が降り続いているゴッサムシティは、彼の心象風景そのものだ。

 

こんな繊細なブルース、観たことない! ブルース・ウェインと言えば大富豪、プレイボーイ、強靭な肉体と格闘術を有する「マッチョイムズ」の権化である。

現代のアメリカにおいて、こういった繊細なヒーローが現れたのは、一つの時代風潮と考えても良いのではないだろうか。

アメリカ的「マッチョイムズ」に疲れている人々が、新しいヒーローとしてパティンソン版ブルースを作り出したのかもしれない、と個人的には考察している。

ダークナイトトリロジー」では「人は這いあがるために墜ちる」というのがテーマとしてあった。今回の「ザバットマン」でのブルースは、這い上がることさえ辞め、ひたすら暗がりの中に閉じこもり続ける。

時代の気分、と言えば、言えなくもないよね。アメリカ、最近元気無いし。

 

 

そして、トレーラーにもBGMとして流されているニルヴァーナの「something in the way」の起用。

 

この曲も、作品全体を漂う重い空気感を見事に表現している。

"something in the way"

「何か引っかかる」「なんだかすっきりしない」

 

リドラーの出す"なぞなぞ"に対しての気分だったり、公務員たちの汚職にまみれたゴッサムシティの腐敗に対してだったり。

そんな「すっきりしない気分」をアコースティックギターのシンプルな響きがより一層重苦しさを演出する。

 

そして、近年のヒーロー映画における定番テーマ「ヒーロー相対化」について(ヒーローって、本当に正しいの?という問い)もちゃんと用意されている。

それに対する回答も、もう言うことなし。

 

 

他にも、リドラーのルックの「ワークマンで揃えました!」感や、SNS社会の犯行手法(リドラーのフォロワー500人という絶妙さ!)、ペンギンの小物感(初期のコミック版の雰囲気に近くて良いよね)、時折登場するゴシック建築の荘厳さや、あとは地味なところで「ネズミ拷問装置」(「1984年」じゃん!)等など、見所満載。

上映時間3時間、全く長いと思わなかった。とにかくお腹いっぱい。

ダークで内省的、そして繊細という新しいバットマン

新時代のヒーローは、人を殴るだけじゃなかった! 次回作も大いに期待!