極楽記録

BGM制作受け付け中! BGM制作事業「キリカ工房」の主、ソロユニット「極楽蝶」の中の人、ユニット「キリカ」のギターとコンポーザー、弾き語りアーティスト、サポートギタリスト、編曲者のサエキの記録

ikomochiさんのこと。

 

 

2か月ほど前知人の登山家の「ikomochi」さんが亡くなられた。

「ikomochi」さんは、私が東日本大震災の時に行った災害ボランティアのグループメンバーの一人で、最年長の方だった。訃報については、他のメンバーの方がLINEで報せてくれた。49日を終えた段階でのお知らせだったためか、亡くなられて一か月半後の報せだった。

 

死因は、転落によるものだった。登山中の事故だ。

 

報せを聞いてから、心のどこかでモヤモヤとするものを抱えている。「ikomochi」さんは、日本百名山を踏破し、次は二百名山、三百名山のみならず、海外にも山登りに行っていたベテラン中のベテラン。そんな「ikomochi」さんでも山中で事故に遭うのかと、今でも信じられない気持ちだ。

 

ボランティアに行く前のことを思い出す。

グループ内最年少でリーダーとして活動することになった私は、正直不安で仕方なかった。被災地に行くのなんて未知の体験だし、おまけにリーダーである。現地がどんな状況なのかはニュースで理解している。危険な場所がクローズアップされて伝えられている。そんな場所で、自分がリーダーとして他のメンバーの安全に気を配りながら活動できるとは思えなかった。

 

「もし事故があったらどうする?」

「被災地という、予想もつかないような状況で手際よく動けるのか?」

「一番若く経験の浅い自分がリーダーにふさわしいのか?」

 

考えれば考えるほど不安になった私は、年長者である「ikomochi」さんに連絡をしたのだった。リーダーを代わってもらおうと思ったのだ。

 

そんな私の申し出に対して「ikomochi」さんは「あまり考えすぎない方が良いですよ」と話してくれた。

「私は半分、好奇心でいきますから。楽しむ気持ちでね」

その一言を聞いたときに、自分の肩の荷がスっと降りたのを覚えている。もちろん楽しむ余裕なんて無いが、不安を聞いて頂けたこともあって、心が軽くなったのだった。「何が起こるかはわからないけど、とりあえず向かって行こう」と思えた。

 

ボランティア終了後、他のメンバーとは数回お会いする機会はあったのだけれど、「ikomochi」さんとだけはいつもお会いすることができなかった。

新宿で開催した「お疲れ会」の時も、

一年後の「自由が丘での再会」の時も、

その後の「宮城再訪」の時も、

 

いつも「ikomochi」さんは「盛況を祈ってます」とのメールだけを残し、どこかの山に向かわれていた。

 

ここまで書いて、寂しさが募ってきた。

 

ヤマレコという、登山家の情報サイトがある。「ikomochi」さんも、そのサイトにアカウント登録されており、ご自身が登られた山々の記録が残されている。

記録を読んでいると、思わず没頭してしまう。自分も一緒に旅をしているような気持ちになる。そして、ボランティア前に私に話してくれた「ikomochi」さんの言葉を思い出す。

 

「楽しむ気持ちでいきます」

 

「ikomochi」さんの記録を読んでいると、人生というのは自分の心がけ次第で楽しいものになる、ということがわかる。「楽しむ」っていうのは実は言葉の印象以上に難しいものだ。ただのバカ騒ぎというのは一過性のものであり、人生を豊かにすることはない。人生を楽しむためには、知性と感性、体力、財力、器用さ、エネルギー、人当たりの良さなどなど、色々なものが必要なのもよくわかる。何よりもこの記録、読んでいてとても面白い。海外のことに関しては現地の人々の表情や文化風俗の一旦を見ることもできる。旅行記として、とても楽しい。

 

お会いできたのは一週間余り、被災地宮城という特殊な環境だったけれど、あの瞬間だけでも「ikomochi」さんと触れ合えたことは私の人生の貴重な財産だ。

まだまだ修行が足らず不器用で、人生を楽しむことができない私だけれど、「ikomochi」さんの話してくれた「楽しむ」という言葉を忘れずに生きていこうと思う。

 

心よりご冥福をお祈りいたします。