極楽記録

BGM制作受け付け中! BGM制作事業「キリカ工房」の主、ソロユニット「極楽蝶」の中の人、ユニット「キリカ」のギターとコンポーザー、弾き語りアーティスト、サポートギタリスト、編曲者のサエキの記録

小説「2001年宇宙の旅」 「神の不在」の時代に生まれた、新たなる神話。

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表紙絵のザラついた色彩も最高!

 

言わずと知れた映画「2001年宇宙の旅」の小説版。映画では説明されなかった謎めいた部分が、本書では詳細に記されている。何故人類は土星(映画では木星)に向かったのか? 石板「モノリス」の謎とは? 船内コンピュータ「HAL」はどうして反乱を起こしたのか?
極端に説明を排した作品となった映画版とは異なり、本書は映画では踏み込まれることのなかった領域まで詳細に説明されている。

 

本書と映画版「2001年~」を本当の意味で理解するためには、本作が制作された時代背景を理解しなければならない。映画公開は1968年。60年代。米ソ冷戦による軍拡競争、宇宙開発競争の時代だ。ベトナム戦争も然り。科学技術の発展の裏に、核兵器による最終戦争への不安がつき纏う時代だった。

 

ソ連の宇宙飛行士ガガーリンが有人宇宙飛行に成功し「地球は青かった」という名言を残す。

ガガーリンの次に宇宙へ行ったチトフは米国シアトルの記者団に対して「神はいなかった」と言った。

 

科学技術が発展していく過程で「神の不在」が明らかになった。キューバ危機等、核による最終戦争の不安が迫る中、祈りをささげる対象もない不遇の時代が訪れるのだった。

 

そこで、本作は作られた。科学的な視点から新たな「神」を再構築すること。それこそが本作の目的だったのだ。本作によって、新たなる「神」は「宇宙人」として定義される。よって、この物語は科学技術が発達した20世紀で作られた、科学的論理性を有した新たなる「神話」なのだ。

 

今日における本作の影響は計り知れない。人類の次の進化の段階のことを「肉体を離脱したもの、精神観念のみのもの」と定義した本作は、言ってみれば「人間をデータ化してインターネットの海と同化する」というサイバーパンク思想の走りとも言えるし、整合性を重視した宇宙空間の描写は、ただの宇宙活劇に過ぎなかったサイエンスフィクションというジャンルを、前衛的なものに昇格させた。

 

科学的な論証にも耐えうる強度を持った本作が、名作でないわけがない。

現実では2001年より20年の時が過ぎ、人工知能の到来が予想されている。今本書を手に取って、来るべき未来に思いを馳せてみるのも良いかもしれない。

 

そして、最後に一言。

 

人工知能は嘘をつけない。

矛盾した命令は彼らを追い詰める。

人工知能の到来は近い。もしあなたが今後「HAL9000」型に似た、自律型コンピュータに遭遇する機会があったら、それをお忘れなきように。