極楽記録

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映画「テネット」は難解なのか? シーン先行型映画の極北を観た!

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ノーラン監督最新作! 難しいことは考えずに世界に入り浸れ!

 

久しぶりの完全オリジナル超大作映画の登場である。最近の大作映画といえば、コミック原作や人気シリーズの無理やり続編ばかりで気が萎えるものが多かったけれど、そうそうまだ映画界にはノーランが居たよ。私は信じていた。彼ならやってくれる、と。

 

物語は、CIA特殊部隊に所属する主人公「名もなき男」が謎の組織「テネット」が仕掛けた極秘テストに合格し、未来人からの攻撃「時間逆行」を退けるべく使命を負い、行動を開始するところから始まる。

 

ノーランお得意の「時間」がまたしてもテーマとなっている。

そしてそして、序盤はいつも通りの「ルール説明」!

 

皆さん! 時間が逆行する話ですよ!

回転ドアに入ると逆行しますよ!

逆行中は酸素を吸えないからマスクをつけますよ!

逆行の世界では火は凍る! 氷は熱い! 何? わからない? 気にしないでそれだけ覚えてて!

 

はいスタート!

考えるな! 感じろ!

 

何? 頭が痛くなってきた? 寝ろ!(このセリフ、劇中にもあるのよね。潔いよね!)

 

要は「時間が逆行する映像をIMAXカメラで撮影したらメッチャ面白いよね!」という動機のもとに作られた、典型的な「シーン先行型映画」なのである。

細かい設定や物理学的な検証は二の次、三の次なわけです。

 

確かに考察しがいがある物語ではあるし、その考察もとても面白い。ネット上で読む一般の方々が書いた解説等を読むと、この映画の背景には様々な物理学的背景があることに驚かされる。素粒子の話とか、陽電子対消滅やら、コペンハーゲン解釈やら、とても勉強になる。

 

しかしこの「テネット」、本気で検証しようとすると穴だらけなのである。

まずクルマ。逆行している人間がどうやって運転するの? というか、そもそもエンジンかかるのか? 前述した「火は凍る」という法則に沿って考えると、エンジンかかった瞬間に凍るってこと? そもそもアクセル踏んでるの? 離してるの?

 

ラストの「スタルスク12」の戦いのニールの動きも今一つ納得できない。彼はどうやって主人公を助けられるのか?(あんまり書くとネタバレになるのでこの辺で)。

 

色々と頭の中で伏線が絡まってしまって納得いかないことも数多い。

でも、無理やり納得する意味で書いてしまうけど、この「テネット」の物語は「あらかじめ結末が決まっている」物語ということなのだろう。

そして、主人公たちはその運命に基づいて行動しているに過ぎない。

結果は変えられないが、行動しなければその結果は発生しないわけだし。

 

何より、これは「シーン先行型」映画である。

逆行する人間との格闘シーンや、順行チームと逆行チームの挟撃作戦は見物である。

そういう映像を「うわ! なんだこれ! 楽しい!」って感じて面白がれば良い映画なのである。

 

設定やルールを完全に理解しきるのは難しい映画ではある。でも、この映画の根本には、スパイ映画のスタイリッシュさ、世界各国で撮影された映像美、戦闘における緊迫感、アナログ撮影が作り出すホンモノの迫力(飛行機ぶっ壊し!)等、往年の映画が持っていたエッセンスをふんだんに盛り込んでおり、映画の伝統に基づいた映画と言える。意外とやっていることそれ自体はシンプルなのだ。

 

往年の映画の伝統と、物理学を応用するという斬新なアイディアを併用するノーラン映画。彼の作り出す映画には、映画界の未来が見える。